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心臓を治す動くシート「リハート」とは?高額医療制度と再生医療の未来

2026年08月14日(金)

こんにちは、お茶の水セルクリニック院長の寺尾です。
今回は、新たに公的医療保険で使えるようになった細胞治療についてお話ししたいと思います。

今回、保険収載されたのは、「リハート(iPS細胞由来心筋シート)」という心臓の治療に用いられる細胞製品です。

再生医療に関わる治療が、研究や臨床試験の段階を経て、実際の医療として患者さんに届けられるようになることは、とても大きな出来事です。

一方で、今回決められた価格は5,000万円を超えており、細胞治療を保険診療として広く提供していくことの難しさについても、改めて考えさせられました。
今回は、リハートがどのような治療なのか、なぜこれほど高額になるのか、そして保険収載された細胞治療をどのように考えるべきなのかについて、できるだけわかりやすく整理してみたいと思います。

リハートとはどのような治療なのか

リハートは、心臓の機能を回復させることを目的として使用される細胞治療です。
細胞をシート状に加工し、そのシートを心臓の表面に貼り付ける形で治療を行います。
万博などで、シート状の組織がピクピクと動いている映像を見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
あのように細胞をシート状に育て、心臓に移植することで、弱くなった心臓の働きを助けることを目指します。

心臓にシートを貼り付けるためには、胸を開いて行う手術が必要です。
簡単に受けられる治療ではありませんが、心臓の機能そのものを回復させる治療は限られています。

治療によって心臓の働きが改善し、息苦しさや活動の制限が軽くなり、患者さんがより健康的に生活できるのであれば、非常に意味のある治療だと思います。

治療価格は5,000万円を超えます

今回、リハートの薬価、つまり治療に使われる製品の公的な価格が決まりました。
動画収録時点で公表されていた価格は、およそ5,300万円です。
金額だけを見ると、非常に高額な治療であることがわかります。

以前ご紹介した、パーキンソン病に対するiPS細胞由来の治療製品「アムシェプリ」も、5,000万円を超える価格が話題になりました。
細胞を用いた治療では、一般的な薬とは異なり、細胞を育て、品質を確認し、安全に使用できる状態へ整える必要があります。

さらに、研究開発、製造設備、細胞の管理、安全性の確認、医療機関への供給などにも、多くの費用がかかります。
そのため、現在の細胞治療では、保険診療として認められた場合でも、製品価格が数千万円になることがあります。

5,000万円が高いのか安いのかは、簡単には判断できません。
治療によって心臓の機能が改善し、その後の入院や治療を減らせるのであれば、大きな価値がある可能性もあります。
一方で、医療全体の中で考えれば、非常に大きな費用が必要になる治療であることも事実です。

患者さんが5,000万円を支払うわけではありません

リハートは保険診療として使用されるため、患者さんが製品価格の5,000万円をそのまま負担するわけではありません。
公的医療保険では、年齢や所得などに応じて、患者さんが窓口で支払う割合が決められています。
さらに日本には、医療費の自己負担が一定額を超えた場合に、超過分の負担を抑える高額療養費制度があります。
そのため、高額な治療であっても、患者さんの実際の負担には上限が設けられています。

これは、必要な治療を費用だけを理由に諦めなくてもよいようにする、非常にありがたい制度です。
ただし、患者さんの窓口負担が抑えられているからといって、治療そのものにかかる費用がなくなるわけではありません。

患者さんが直接負担しない部分は、公的医療保険や税金など、社会全体の仕組みによって支えられています。

保険で使えることと、医療費全体の問題

新しい細胞治療が保険で使えるようになることは、患者さんにとって大きな前進です。
これまで一部の研究や限られた環境でしか受けられなかった治療が、一定の条件のもとで実際の診療に使われるようになります。
一方で、一人の治療に数千万円の費用がかかる場合、その治療を受ける方が増えるほど、医療費全体への影響も大きくなります。

細胞治療を必要とする方に広く届けたいが、医療制度を将来にわたって維持していくことも考えなければならない。
この二つの間で、どのようにバランスを取るかは、とても難しい問題です。

治療効果だけでなく、どのような患者さんに適しているのか、長期的にどの程度の改善が期待できるのか、その後の入院や他の治療を減らせるのかといった点も、今後さらに評価されていく必要があります。

整形外科領域でも細胞治療が進んでいます

整形外科の領域でも、細胞を用いた治療の開発は進んでいます。
たとえば、半月板損傷に対する細胞治療についても、治療に使用できる段階まで進んでいるものがあります。
動画収録時点では、まだ保険収載されておらず、正式な価格は決まっていません。
今後、保険診療として使用されるようになった場合、どの程度の価格になるのかは注目されるところです。

心臓や神経の治療と同じように、製造や管理に多くの工程が必要であれば、整形外科領域の細胞治療についても高額になる可能性があります。
ただ、半月板や関節の状態が改善し、将来的な手術を避けられたり、痛みを減らして生活の質を保てたりするのであれば、治療としての価値は十分に考えられます。
大切なのは、価格だけで評価するのではなく、どのような方に、どの程度の効果が期待できるのかを見極めることです。

保険診療と自費診療、それぞれの難しさ

保険診療では、患者さんの自己負担が抑えられる一方で、医療費の多くを社会全体で負担することになります。
自費診療では、国の医療費への影響は抑えられますが、患者さんが治療費を全額負担しなければなりません。
どちらにもメリットと難しさがあります。
保険診療だからすべて良い、自費診療だからすべて悪いということではありません。
重要なのは、その治療にどのような根拠があり、安全性や効果についてどこまでわかっているのか、患者さんの状態に本当に適しているのかを丁寧に確認することです。

お茶の水セルクリニックでも、自費診療として細胞治療を提供しています。
自費診療は決して安い治療ではありません。
だからこそ、できる限り受けやすい環境を整えると同時に、必要のない方へ無理に治療をすすめないことも大切だと考えています。

細胞治療が、少しずつ現実の医療になってきました

これまで細胞治療というと、「将来の医療」「まだ研究段階の治療」というイメージを持たれていた方も多いと思います。

ただ、最近ではパーキンソン病に対する治療や、今回の心臓に対するリハートのように、細胞を使った治療が実際の医療の中で使われるようになってきました。

再生医療に関わっている立場からすると、これは非常に大きな変化だと感じています。研究室の中で行われていたものが、少しずつ患者さんに届けられる治療へと進んできたということだからです。

もちろん、保険で使えるようになったからといって、すべての患者さんに同じような効果が期待できるわけではありません。
どのような状態の方に適しているのか、実際に治療を受けたあとにどの程度の変化が見られるのか、さらに長期的な安全性や効果についても、これから実際の診療の中で情報が積み重なっていく段階だと思います。

新しい治療が出てくると、どうしても「すごい治療が出てきた」と期待が先行することがあります。
一方で、新しいという理由だけで慎重になりすぎてしまうこともあります。
大切なのは、どちらかに偏ることではなく、実際にどこまでわかっているのかを一つずつ確認しながら、その治療を見ていくことだと思っています。

必要な方が、納得して治療を選べるように

細胞治療が保険診療として使えるようになることは、再生医療が一部の限られた方だけのものではなく、実際の治療の選択肢として広がってきたことを意味します。
これは患者さんにとって、とても大きなメリットです。

ただ一方で、今回のように一つの治療に5,000万円を超える価格が設定されると、治療を受けやすくすることだけではなく、日本の医療制度全体の中でどのように支えていくのかという問題も出てきます。
患者さんの自己負担が抑えられていても、治療そのものにかかる費用がなくなるわけではありません。
その費用は、保険料や税金などを通じて社会全体で支えることになります。

だからこそ、細胞治療を広げていくうえでは、単純に「保険で使えるようになればそれでよい」という話ではないと思っています。
治療の安全性や品質を保ちながら、本当に必要な方に適切な形で届けていくこと、そして医療制度として無理なく続けていける形を考えていくことが必要です。

お茶の水セルクリニックでも、細胞治療を必要としている方が、できるだけ納得したうえで治療を選べる環境を作っていきたいと考えています。

良い面だけをお伝えするのではなく、どこまで効果が期待できるのか、どのような限界があるのか、費用はどのくらいかかるのか、ほかの治療と比べてどのような位置づけになるのかまで含めてお話ししたうえで、その方にとって何が一番妥当なのかを一緒に考えていくことが大切だと思っています。

再生医療は、少しずつ現実の医療として広がり始めています。
だからこそ、期待だけで選ぶのでもなく、不安だけで遠ざけるのでもなく、きちんと情報を知ったうえで判断していただければと思います。

細胞治療や再生医療について気になることがある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

※今回の内容は以下の動画でも見ることが可能です。

何かご不明な点等ございましたら、当院の公式サイトからお気軽にお問い合わせください。

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