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【移植した細胞は、いつまで残るのか?】―院長のブログ

2021年07月13日(火)

関節の中に移植した細胞は、どの程度まで残るのでしょうか?

すぐに代謝されてしまい無くなってしまうのか、それとも長期間に渡って

関節の中に残るのか。

その答えに繋がる可能性のある論文が2007年に発表されていますので

ご紹介したいと思います。

 

Jamali, A. A., Hatcher, S. L., & You, Z. (2007). Donor cell survival in a fresh osteochondral allograft at twenty-nine years: a case report. JBJS89(1), 166-169.

 

題名を日本語に訳すと「他人から移植した新鮮骨軟骨片内のドナー細胞は29年後にも残っていた」

という感じです。

この論文はケースレポートですので、全ての移植細胞が、この論文のような経過を

辿るかは分かりません。

ですが、とても興味深い内容でした。

 

論文内容の概略は以下のようなものです。

22歳の男性が膝の軟骨を大きく欠損するような状態になりました。

その軟骨欠損部に対して、女性のドナーから採取した骨軟骨片の移植が行われました。

29年後、この男性の関節内の細胞を調べたところ、女性の細胞が残っていました。

 

組織片として移植している治療法ですので、細胞移植に引用するのは少々乱暴かもしれません。

しかし、長期間に渡って他人の細胞が関節の中に残っていたということは、

とても知見の多い報告です。

通常、臓器移植を受けた人は免疫抑制剤を使う必要があります。

これは、移植した他人の臓器を、自分の免疫が異物として攻撃してしまうことを抑えるためです。

免疫で攻撃されてしまうと、組織や細胞はなくなってしまい、働くことができません。

そのため、免疫を抑えて、移植した臓器を残す必要があるのです。

この論文では、特に免疫抑制剤などは使っておりません。

元々、関節の中は免疫が弱い場所と言われていますが、それでも他人の細胞が

長期間存在し続けることができたのは驚異的なことだと思います。

 

もし、この現象が全ての人に起こり得る現象なのだとしたら、関節の中に注入した

自分自身の細胞が長期間残る可能性があると考えています。

勿論、長期間細胞が生き残るためには、少なくとも細胞が安定できる環境(例えばニッチ)

を整えることが必要だと思います。

 

将来的に、色々な治療法と組み合わせることで、移植した細胞を長期間残す方法が

見つかるのではないかと思っています。