こんにちは、お茶の水セルクリニック院長の寺尾です。
今回は、私自身がどのような経緯で再生医療に関わるようになったのか、そして現在どのような考えで診療に向き合っているのかについて、少しお話ししたいと思います。
再生医療に取り組む様になったキッカケ
私は医師になってから、もうすぐ30年ほどになります。そのキャリアの中で、最初は一般的な整形外科医として、外来診療や手術を中心に行ってきました。
人工関節の手術をはじめ、整形外科の領域でさまざまな治療に携わってきましたが、キャリアの半分ほどは再生医療に関わってきたことになります。
再生医療に興味を持つようになったきっかけは、ある論文との出会いでした。
当時、病院では抄読会(しょうどくかい)という、医師が論文を読んで他の先生方に紹介する会がありました。
そこで何か面白い論文はないかと探していたときに、たまたま再生医療に関する論文を見つけました。
いわゆる「バカンティマウス」と呼ばれる、ネズミの背中に耳のような組織を作った研究に関連するもので、ティッシュエンジニアリング(組織工学)という考え方に基づいた内容でした。
その抄読会自体は、「面白いね」という感じで終わったのですが、私自身はその内容に強く惹かれました。
もしこのような技術が発展していけば、将来的には人工物に置き換えるのではなく、自分の関節や組織を新しく生まれ変わらせるような治療ができるのではないか。
そう考えるようになったのが、再生医療に関心を持った最初のきっかけです。
京都大学大学院で学んだ再生医療と、医学だけではない視点
再生医療について調べていく中で、当時はES細胞が非常に注目されていました。
現在ではiPS細胞が広く知られていますが、その前の時代にはES細胞が幹細胞研究の中心にあり、再生医療の可能性を大きく広げる存在として期待されていました。
もっと深く再生医療を学びたいと思い、私は京都大学の大学院を受けることにしました。
東京で通常の診療をしながら京都の大学院を受けるというのは簡単なことではありませんでしたが、どうしても知りたい、学びたいという気持ちがありました。
大学院では、医学部だけではなく工学部とも連携した研究室に入ることになりました。
そこでは、人工関節の材料や細胞に対する物理的刺激など、医学と工学の両方の視点が必要となる研究が行われていました。
この環境で学んだことは、私にとって非常に大きな経験でした。
医学部の考え方と工学部の考え方は大きく違います。
医学では、人の体が本来持っている適応力や回復力に支えられる部分が大きく、多少のズレがあっても体がうまく対応してくれることがあります。
一方で工学の世界では、物を作る精度や設計の考え方が非常に厳密です。
この医学と工学の違いに触れたことで、体を治すということを、より広い視点で考えるようになりました。
細胞だけを見ればよいわけではなく、材料、環境、物理的な刺激、そして身体全体の反応まで含めて考える必要がある。
その感覚は、今の再生医療の診療にもつながっています。
アメリカの医療現場で感じた、日本の医療の強さと新しい視点
その後、東京に戻ってからは、すぐに再生医療だけを行っていたわけではなく、再び整形外科医として診療を行っていました。
その中で、ジョンズ・ホプキンス大学と連携したクリニックに関わる機会があり、オープニングスタッフとして勤務することになりました。実際にアメリカの医療現場を見学する機会もあり、手術の現場や外来診療に触れることができました。

アメリカの医療は、設備やシステム、分業の仕組みなど、日本とは違う面が多くあります。
一方で、手術の技術や診断能力に関しては、日本の医療も決して負けていないと感じました。
むしろ、日本の先生方は一つひとつの手技を非常に丁寧かつ正確に行っており、通しで診療や手術に関わる力はとても高いものがあります。
ただ、アメリカにはアメリカの良さがあります。
新しい考え方を積極的に取り入れる姿勢や、医師同士のディスカッションの中で学べることも多くありました。
日本の医療の良さを再確認しながら、同時に海外の新しい視点を取り入れることの大切さも学びました。
再生医療だけでなく、リハビリが重要だと感じた理由
整形外科の診療を続けていく中で、私が強く感じるようになったのが、リハビリの重要性です。
整形外科では、注射や手術だけでなく、その後にどのように体を使い、どのように機能を取り戻していくかが非常に大切になります。
当時、整形外科のリハビリというと、電気治療やマッサージ機のようなものが中心になっているケースも少なくありませんでした。
それらも治療法の一つではありますが、体をしっかり作り込み、根本的に症状が出にくい状態を目指すという発想は、まだ十分に広がっていなかったように思います。

そのような中で、体の機能を高めるリハビリやトレーニングを取り入れたところ、長年続いていた腰痛や膝の痛みが改善していく方もいらっしゃいました。
もちろん、すべての方に同じような結果が出るわけではありませんが、身体の使い方や機能を見直すことによって、治療の可能性が大きく広がることを実感しました。
再生医療においても、これは同じです。
細胞を投与して終わりではなく、その後にどのように動かし、負荷をかけ、身体を回復に向かわせていくかが重要になります。
細胞治療とリハビリは、決して別々のものではありません。
治療によって体の中に変化のきっかけを作り、その変化をより良い方向へ導いていくために、適切なリハビリや運動が必要になると考えています。
PRP治療を始めたきっかけ
PRP治療を始めたきっかけは、実は患者さんからの相談でした。
当時は、今ほどPRPという言葉が一般的ではありませんでした。
関節治療としてPRPを行っている医療機関も、国内ではまだ非常に少ない時代でした。
ある患者さんが、アメリカの野球選手から「PRPをやってみたらどうか」と聞いたそうで、その話を私のところに持ってこられました。
私自身も当時、幹細胞については勉強していましたが、PRPについてはまだ十分に知識がある状態ではありませんでした。
そこで、「少し調べる時間をください」とお伝えし、論文や資料を集めて調べました。
PRPは、自分の血液から血小板を濃縮し、その中に含まれる成分を治療に活用する方法です。
当時の研究では、炎症を抑える作用や痛みを軽減する可能性、組織の修復を促す可能性などが示されていました。
ただし、現在ではPRPの修復促進効果については、部位や状態によって慎重に考える必要があるとされています。
そのため、PRPを行えば必ず組織が修復するという単純な話ではありません。
それでも、当時としては新しい可能性のある治療でしたし、患者さんにもリスクや不確実性を説明したうえで、治療を行うことになりました。
それが、私がPRP治療に関わるようになった最初の経験です。
PRPと幹細胞治療の違いについて
PRPと幹細胞治療は、どちらも再生医療の領域で語られることが多い治療ですが、考え方は少し異なります。
PRPは、血小板に含まれる成分を利用する治療です。
血小板そのものが新しい組織を作るわけではなく、血小板の中に含まれている成分が患部に働きかけ、そこに存在する細胞の反応を促すようなイメージです。
そのため、治療する部位に反応してくれる細胞が十分にある場合には、PRPが選択肢になることがあります。
血液を採取してその場で処理し、比較的スピーディーに治療できるという点もPRPの特徴です。
一方で、治りにくい部位や、もともと細胞が少なく反応が乏しい場所では、幹細胞治療の方が適していると考える場面もあります。
幹細胞は、周囲の環境に応じてさまざまな物質を出し、体の修復反応に関わる可能性があるため、より広い意味で組織の変化を促す治療として期待されています。
もちろん、幹細胞治療がすべての方に適しているわけではありません。
大切なのは、PRPがよい、幹細胞がよいと単純に決めることではなく、患者さんの状態、治療したい部位、症状の経過、画像所見、生活背景などを含めて総合的に判断することです。
PRPの詳しい解説については、こちらのブログをご覧ください。
↓
PRP(多血小板血漿)の種類について
幹細胞治療の副作用やリスクについて
幹細胞治療にも、当然ながらリスクはあります。
関節に投与する場合には、治療後に一時的な痛みが出ることがあります。
これは細胞が悪さをしているというより、関節内に異物が入ることで体が反応し、一時的に痛みや違和感が出るようなイメージです。
多くの場合、時間の経過とともに落ち着いていきますが、治療前には必ず説明が必要な点です。
また、注射を行う以上、出血や感染のリスクはゼロではありません。
さらに、脂肪由来幹細胞を用いる場合には、脂肪を採取する部位に内出血が生じることもあります。
大きな痛みにつながることは多くありませんが、見た目として紫色の内出血が出る可能性があります。

幹細胞治療の内出血については、こちらのブログをご覧ください。
↓
脂肪採取後の皮下出血について
一方で、がん化などの高いリスクはないと考えられています。
ただし、どのような治療であっても、リスクがまったくないということはありません。
そのため、治療を行う前には、メリットだけでなくリスクについても丁寧に説明し、納得していただいたうえで進めることが大切だと考えています。
治療後に固定した方がよいのか
PRPや幹細胞治療を行った後に、固定した方がよいのかという質問をいただくことがあります。
これは、どの部位に対して、どのような変化を期待して治療を行うかによって変わります。
たとえば、不安定な組織を安定させたい場合には、ある程度動かさない方がよいこともあります。
反対に、関節のように本来動くべき場所を長期間しっかり固定してしまうと、その後のリハビリが大変になることがあります。

海外では、治療後に数週間しっかり固定するケースもありますが、その後に関節が硬くなり、リハビリに時間がかかることもあります。
なので、固定するかどうかは一律に決めるものではなく、治療部位や目的、状態に合わせて判断する必要があります。
再生医療では、細胞を入れることだけが治療ではありません。
治療後にどう過ごすか、どのタイミングでどの程度動かすか、どのようにリハビリを進めるかまで含めて、治療計画を立てることが大切です。
幹細胞治療は何回でも受けられるのか
幹細胞治療は、基本的には複数回受けることが可能です。
実際に、疾患や状態によっては複数回投与した方がよい可能性を示す研究もあります。
体の修復反応というのは、一度きりで終わるものではありません。
たとえば、同じ場所を二度怪我したら二度目は治らない、ということはありません。
体はその都度、修復しようと反応します。その過程には幹細胞も関わっていると考えられています。
ただし、だからといって何回も治療をすればするほど必ずよくなる、という話ではありません。
現時点では、どのような方が複数回治療に向いているのか、2回目を行うことでどの程度効果が上がるのかについて、十分なデータが揃っているとは言えない部分もあります。
そのため、当院ではやみくもに複数回の治療をおすすめするのではなく、まずは一回一回の治療後の変化を確認しながら、必要性を見極めていくことを大切にしています。
再生医療で最も大切なのは、最初の診断
再生医療というと、PRPや幹細胞といった治療方法そのものに注目が集まりやすいのですが、私が最も大切だと考えているのは、最初の診断です。
どれだけ新しい治療であっても、そもそもその方の状態に合っていなければ、十分な結果につながらない可能性があります。
痛みの原因がどこにあるのか、関節や組織の状態はどうなっているのか、再生医療が適している状態なのか、それとも別の治療やリハビリを優先すべきなのかを見極めることが重要です。
再生医療は、まだまだ発展していく分野です。
昔は分からなかったことが、今後の研究によって明らかになることもあるでしょうし、今よりもさらによい治療の考え方が出てくる可能性もあります。
だからこそ、常に新しい情報を学びながら、患者さんにとってよりよい選択肢を提供できるようにしていきたいと考えています。
お茶の水セルクリニックでは、再生医療を無理にすすめるのではなく、まずはしっかりと診断を行い、その方にとって本当に適した治療かどうかを一緒に考えていきます。
治療そのものに興味がある方はもちろん、まずは自分の状態を知りたいという方も、一度ご相談いただければと思います。